初心者向け
AI 導入は、手作業から始める
「とりあえず AI で何か作ろう」から始めると、AI に向かない仕事まで AI に任せてしまいます。
このサイトの自動化15本は、どれも「人が手でやっていること」から始めました。すると、5本は AI をまったく使わず、AI を使った10本でも、AI の仕事は「文章を読む・書く・訳す」に限られました。
AI に日付や計算を任せたときに実際に起きたことと、始める前に決める4つのことを書きます。
公開
先に結論を書きます。AI 導入は、「AI で何をするか」からではなく、「人が手で何をしているか」から始めます。 そうすると、AI が要らない部分と、AI に任せてはいけない部分が、先に見えます。
ここに書くのは、このサイトで配っている自動化の実例15本を作ったときのことです。AI は Claude Haiku 4.5 で、お店や会社のデータは、検証用に作った架空のものです。会社への導入の成功・失敗を数えたものではありません。
「AI で何をするか」から始めると、何が起きるか
同じ仕事(お客様の問い合わせメールに、返信の下書きを作る)を、2つの作り方で比べたことがあります(AI Agent に任せるか、手順を組むか)。
- 手順を組んだ版:「仕分ける → 在庫や空き枠を表で調べる → 下書きを書く」を、人が決めた順に流す。AI は仕分けと文章だけ
- AI Agent の版:道具(在庫を調べる、下書きを作る、など)を渡して、何をどの順でするかも AI に任せる
同じモデル・同じデータで、AI Agent の版は、費用が約3倍で、空き枠があるお客様を4回中3回断り、来店できない日を「予約できます」と書いた回もありました。
「AI にできるだけ任せる」ほど、良くなるとは限りません。この仕事では、任せた分だけ崩れました。
手作業から始めると、AI が要らない部分が見える
このサイトの実例は、どれも「人が手でやっていること」(記事の冒頭の Before)を書き出すところから作っています。書き出してから、手順ごとに「ここは AI でないとできないか」を決めました。結果は次のとおりです。
| 実例 | AI がすること | AI を使わず、コードがすること |
|---|---|---|
| 外貨決済の為替チェック | 使わない | 為替レートの取得、上乗せの割合の計算 |
| 自動化の診断書 | 使わない | 認証の確認、実行回数の集計 |
| 共通エラー通知 | 使わない | 失敗の知らせを1本にまとめる |
| 取りこぼさない取得 | 使わない | 成功と失敗を分けて取る |
| 定期取得・集計・通知 | 使わない | 取得、集計、本文の組み立て |
| 領収書とカード明細の突合 | PDF を読んで項目に分ける | 金額の検算、明細との突き合わせ |
| Chatwork の記録をシートへ | 書き込みを項目に分ける | 金額の検算、日付の計算 |
| 引用つきの議事録 | 文字起こしを要約する | 引用が本当にあるかの照合 |
| 法令の改正ウォッチ | 変わった条文を説明する | 変わった文字を出す、説明の照合 |
| ページ速度の週次チェック | 直し方を書く | 測る、合否の判定 |
| LINE 多言語の窓口 | 翻訳する | 訳文の数字の検算 |
| LINE×Slack 問い合わせ対応 | 答えが決まる質問に返事を書く | AI に答えさせるかどうかの分岐 |
| LINE の返信を承認して送る | 仕分けと、返信案を書く | 在庫・空き枠を表で調べる(送るのは人) |
| 在庫・来店メールの返信下書き | 仕分けと、下書きを書く | 在庫・空き枠を表で調べる(送るのは人) |
| LINE×Slack 学習する窓口 | 似た過去の返信を探す、返信案を書く、名前などを伏せる | 番号・メールを伏せる(正規表現)、覚えるかどうかは担当者の #learn(送るのは人) |
15本のうち5本は、AI をまったく使っていません。 どれも、計算、集計、決まった手順の繰り返しで、答えが1つに決まる仕事です。AI を使うと、毎回同じ答えが返る保証がなくなり、費用もかかります。
AI を使った10本でも、AI の仕事は「文章を読む・書く・訳す」に限っています。 数字の計算、日付、表の検索、送るかどうかの判断は、AI の外(コードや人)でやっています。
AI に日付や計算を任せたら、何が起きたか
「AI の外でやる」と決めたのは、試して崩れたからです。
AI は、今日の日付を知りません。 来店の相談メールから日付を取り出すとき、今日の日付を AI に渡さずに試したら、こうなりました(2026年10月の検証です。在庫・来店メールの自動返信を作った記録)。
| メールの表現 | AI が取り出した日付 | 正しい日付 |
|---|---|---|
| 今度の日曜日 | 2025-01-12 | 2026-10-04 |
| 10月7日の水曜日 | 2024-10-07 | 2026-10-07 |
| 今週の土曜日 | 土曜日(日付ですらない) | 2026-10-03 |
そこで、Chatwork の実例では、AI には「昨日」「先週金曜」という言葉を取り出すだけをさせ、それが何日かは、書き込んだ日からコードが計算しています。
金額も同じです。 領収書の実例では、AI が金額を数字ではなく「¥3,200」という文字で返したことがあります。コードが「金額は PDF の文字にあるか」「明細と税の合計は合うか」を確かめているので、このときは「要確認」で止まり、間違いのまま表に入ることはありませんでした。
始める前に決める4つのこと
ここまでの実例から、私は作り始める前に、次の4つを順に決めています。実測から導いた決まりではなく、私のやり方です。
- 人が手でやっていることを、手順ごとに書き出す。 「領収書を開く → 店名・日付・金額を読む → 表に打ち込む → 月末に明細と見比べる」のように。この時点では、AI のことは考えません
- それでも人に残すことを、先に決める。 お客様への送信、支払い、例外の判断など。ここを後回しにすると、「全部 AI に任せる」作りになりがちです(送信を AI に任せなかった理由は、AI に「送る」を任せない設計に書きました)
- 答えが1つに決まる手順は、AI を使わない。 計算、日付、表の検索、集計。残った「文章を読む・書く」手順だけを、AI の候補にします
- わなを仕込んだデータで試す。 領収書の実例では、わざと計算を合わなくした請求書や、文字のない画像だけの PDF を混ぜた12枚で試しました。普通のデータで数回動かしただけでは、AI の崩れ方は見えません
確認していないこと
- 会社での導入の結果。 ここにあるのは、私が作って検証用のデータで試した実例です。実際の会社で、何か月も使ったときにどうなるかは分かりません
- 時間がどれだけ減るか。 どの実例も、作業時間の短縮は測っていません
- ほかのモデル。 どの例も Claude Haiku 4.5 です。日付や計算を、もっと大きなモデルに任せたときの結果は試していません
次に読む
- AI に任せる範囲の決め方の続きは AI に「送る」を任せない設計
- 手順を組むか、AI Agent に任せるかの比べ方は AI Agent に任せるか、手順を組むか
- 業務ごとの実例は 経理・事務の自動化の実例 と お客様の問い合わせの自動化の実例