中級向け
マルチエージェントの6つの型
マルチエージェントの設計パターンは、会社ごとに名前が違います。同じ「ルーティング」が、ある会社では「最初に分類して振り分ける」、別の会社では「AI がその場で引き継ぐ」の意味で使われています。
Microsoft、Anthropic、OpenAI、Google、LangChain の公式の資料を読み、中身の概念で6つの型に整理しました。
振り分け型と引き継ぎ型を、同じ問い合わせメール7通で実際に動かすと、引き継ぎ型は要らない場面で引き継ぎ、お客様に送れない文を28通中5通返しました。用件が2つあるメールでは、一度も引き継ぎませんでした。
公開 最終更新
動作確認: — n8n 2.36.8 / AI Agent v3.1 / Claude Haiku 4.5
先に結論を書きます。マルチエージェントの型は、名前ではなく「段取りを決めるのは誰か(コードか、AI か)」と「仕事をどう渡すか」で見分けると、各社の呼び名の違いに迷わなくなります。 そして、どの会社の資料も、型を選ぶ前に「本当に複数の AI が要るか」を確かめるよう勧めています。実際に、担当が最初から分かる問い合わせで引き継ぎ型を動かすと、決まった振り分けより崩れました。
型の整理は、公式の資料を読んでまとめたものです。 資料はすべて2026年10月17日に読みました。名前や型の数は、資料の更新で変わることがあります。自分で動かして測ったのは、後半の「測ってみた」の節だけです。
見分ける軸は2つ
- 段取りを決めるのは誰か。 人が前もってコードで決めるか、AI がその場で決めるか。OpenAI の Agents SDK の資料は、これを「コードで指揮する」と「AI で指揮する」と呼び分け、コードで指揮するほうが「速さ・費用・出来が予測しやすい」と書いています(Orchestrating multiple agents)
- 仕事をどう渡すか。 順に渡す、最初に振り分ける、引き継いで戻らない、呼び出して戻る、同時にやる、往復する
この2つの軸で、各社の型は6つにまとまります。
6つの型と、各社の呼び名
型の名前は、この記事で付けた日本語です。
- ① 直列:決まった順に、前の結果を次へ渡す
- ② 振り分け:最初に1回分類して、決まった担当へ送る
- ③ 引き継ぎ:担当している AI が、その場で別の AI に渡す。制御は戻らない
- ④ 並列:同じ入力を複数の AI が同時に処理し、まとめる
- ⑤ 管理役:管理役の AI が仕事を分けて担当を呼び、結果は管理役に戻る
- ⑥ 作る役と確かめる役:作る AI と確かめる AI が、合格するまで往復する
各社の呼び名は、次のとおりです(— は、その資料に当たる型が無いもの)。
| 型 | Microsoft | Anthropic | OpenAI | LangChain | Google ADK |
|---|---|---|---|---|---|
| ① 直列 | Sequential | Prompt chaining | (コードで指揮) | Custom workflow | Sequential pipeline |
| ② 振り分け | (deterministic routing を勧める) | Routing | — | Router | Coordinator / Dispatcher |
| ③ 引き継ぎ | Handoff | — | Handoffs | Handoffs | (Coordinator が近い) |
| ④ 並列 | Concurrent | Parallelization | — | Router(複数に送る場合) | Parallel fan-out / gather |
| ⑤ 管理役 | Magentic | Orchestrator-workers | Agents as tools | Subagents | Hierarchical decomposition |
| ⑥ 作る役と確かめる役 | Group chat(maker-checker) | Evaluator-optimizer | — | — | Generator and critic、Iterative refinement |
出典:Microsoft は AI Agent Orchestration Patterns と Agent Framework の orchestrations、Anthropic は Building effective agents(2024年12月19日)、OpenAI は Orchestrating multiple agents、LangChain は Multi-agent、Google は Developer’s guide to multi-agent patterns in ADK(2025年12月16日)。
6つに入れなかったもの
- 道具を持った AI 1つ(単独のエージェント)。 Anthropic の Agents、Microsoft の Single agent with tools、LangChain の Skills。マルチエージェントの一つ手前の段階です
- 人の承認。 Google は Human-in-the-loop を型の1つにしていますが、Microsoft は、どの型にも付けられる機能として書いています。型というより、どの型にも足せるものです
- Microsoft の Group chat のうち、複数の AI が話し合う使い方。 表では、往復して確かめる使い方(maker-checker)だけを⑥に入れました
取り違えやすい3つの点
どの段階から始めるか
Microsoft の資料は、型を選ぶ前に、こう勧めています。「要件を確実に満たす中で、いちばん単純な段階を使う」(AI Agent Orchestration Patterns)。
| 段階 | 中身 | 資料に書かれていること |
|---|---|---|
| AI を1回呼ぶだけ | 分類、要約、翻訳などを1回で | プロンプトで解けるなら、エージェントは要らない |
| 道具を持った AI 1つ | AI が道具を選びながら繰り返す | 企業の用途では、多くの場合これが最初の選択。繰り返しの上限を決める |
| 複数の AI | 担当の違う AI が協力する | 調整の手間、遅れ、失敗の種類が増える。1つの AI では確実にこなせない理由があるときに使う |
さらに、Handoff(③)を避けるべき場面として、**「どの担当に渡すかが、最初の入力から分かるとき」**を挙げ、そのときは決まった振り分け(②)を使うよう書いています。
このサイトでは、2つ目の段階(道具を持った AI 1つ)までは測っています。お客様の問い合わせメール7通で、手順を組んだ版と比べると、AI Agent の版は費用が約3倍で、空き枠があるお客様を4回中3回断りました(AI Agent に任せるか、手順を組むか)。1つ目の段階で足りる仕事を2つ目でやると、悪くなったという結果で、Microsoft の勧めと同じ向きです。
測ってみた:振り分けと引き継ぎを、同じメール7通で比べた
ここからは、自分で動かして測った内容です(2026年10月18日、n8n 2.36.8、Claude Haiku 4.5)。
家具店への問い合わせメール7通に、返信の文を作る仕事で、3つの作り方を比べました。7通、在庫と来店枠のデータ、返信のルール、モデルは、3つとも同じです。「今日」の日付は、2026年10月2日(金)に固定しました。
| 作り方 | 型 | 中身 |
|---|---|---|
| A | ② 振り分け | AI が用件を1回分類し、決まった手順で在庫や来店枠を調べ、返信を書く |
| B | 道具を持った AI 1つ | 在庫と来店枠を調べる道具を、AI Agent が自分で選んで使う |
| C | ③ 引き継ぎ | 受付の AI が、在庫係の AI か来店係の AI に引き継ぐ。係の AI は自分の道具で調べ、用件が残っていれば、もう一方の係に引き継ぐ(2回まで)。最後の係が返信を書く |
7通は、在庫の質問が3通、来店の相談が2通、不具合の相談が1通、「3人掛けのソファを見たいので、今度の日曜日に行きたい」という用件が2つのものが1通です。各版を4回ずつ流しました(28通ずつ)。
| 7通あたり(4回の幅) | A 振り分け | B AI Agent 1つ | C 引き継ぎ |
|---|---|---|---|
| 費用 | $0.019〜0.020(1通 約0.4円) | $0.028〜0.040(1通 約0.6〜0.9円) | $0.029〜0.034(1通 約0.6〜0.7円) |
| AI の呼び出し | 19回 | 12〜18回 | 19〜20回 |
| かかった時間 | 25〜28秒 | 24〜31秒 | 31〜38秒 |
| お客様に送れない文 | 0 / 28 | 0 / 28 | 5 / 28 |
| 空きの有無を、間違えて案内した | 0 / 28 | 1 / 28 | 1 / 28 |
費用は、Claude Haiku 4.5 の料金(入力100万トークンあたり1ドル、出力5ドル、1ドル150円)で計算しました。
要る場面では、引き継ぎませんでした。 用件が2つある「3人掛けのソファを見たい+日曜に行きたい」では、受付が4回とも来店係に渡しました。来店係は3回「その日は満席」と答えて完了にし、1回は日付を確かめたいという内部向けの文を返しました。在庫係への引き継ぎは一度も起きず、ソファの在庫には4回とも触れていません(A と B も、ソファの在庫には触れていません)。
引き継いだあとに、日付を取り違えた回もありました。 「今週の土曜日の午後」の問い合わせで、来店係が1回、10月4日を土曜日として調べ、空きがある(10月3日の16時)お客様に「満席です」と答えました。
B(AI Agent 1つ)の誤りは1回で、来店枠が1件も無い10月7日に「11時のご来店をお受けすることができます」と書きました。ベッドの問い合わせは、B は4回とも答えずに人に回しました。A は4回とも「取り扱いがない」と答えています。
空きの有無以外の誤りもありました。A は1回、在庫切れのソファを「お取り扱いが終了」と書きました(在庫切れと11月中旬の入荷予定は正しく書いています)。C は1回、引き継ぎのあとで在庫の情報が抜け、「在庫状況は担当者から改めてご連絡いたします」とだけ書きました。
このサイトの実例に当てはめると
このサイトの自動化の実例は、どれも「AI は1つ、ほかはコードか人」です。それでも、型の形はいくつも出てきます。
| 型 | 実例 | 型との違い |
|---|---|---|
| ① 直列 | 法令の改正ウォッチ(コードが差分を出す → AI が説明する → コードが照合する) | 前後の担当は、AI ではなくコード |
| ② 振り分け | 在庫・来店メールの返信下書き(AI が仕分けて、決まった手順へ) | 送り先は、AI ではなく決まった手順 |
| ③ 引き継ぎ | LINE×Slack 問い合わせ対応(AI から人の担当者へ渡す) | 受け手は、AI ではなく人 |
| ④ 並列 | なし | — |
| ⑤ 管理役 | n8n AI Agent ノード(道具を呼んで、結果が戻る) | 呼ぶ相手は、AI ではなく道具 |
| ⑥ 作る役と確かめる役 | 領収書の突合、議事録、翻訳(コードが確かめる) | 確かめる役は、AI ではなくコード。往復せず、合わなければ止めるだけ |
担当を AI にすると、それがマルチエージェントになります。逆に言えば、担当をコードや人にできるところは、AI を増やさずに同じ形を作れます。 確かめる役をコードにした理由は、AI に「送る」を任せない設計に書きました。
確認していないこと
- ②と③以外の型。 測ったのは、振り分け(②)と引き継ぎ(③)、それに道具を持った AI 1つだけです。直列、並列、管理役、作る役と確かめる役は、資料を読んだだけです
- 引き継ぎ型に向く仕事。 担当が途中で分かる仕事や、別のモデル、別のプロンプトでは試していません。4回ずつの試験なので、割合は目安です
- 資料の新しさ。 各社の SDK は更新が速く、型の名前や数は変わることがあります。どれも2026年10月17日に読んだ内容です
- OpenAI の Handoffs の細部。 「渡した先の AI が、その回の残りを引き受ける」までは資料にありますが、そのあと最初の AI に戻せるかは、資料からは読み取れませんでした
次に読む
- 道具を持った AI 1つと、手順を組んだ版の比較は AI Agent に任せるか、手順を組むか
- AI の周りの仕組み(ハーネス)の違いは エージェントハーネスとは
- AI に任せる範囲の決め方は AI 導入は、手作業から始める